『ラッコ』という動物は知ってますか?
知っていても、「直接見たことはありますか?」と続けて聞くと、ある世代からは直接見たことはないという回答がほとんどになります。
その分岐点になるのは20代です。
つぶらな瞳で愛くるしい表情、食事の時はお腹の上に乗せた石に、貝や蟹の硬い甲羅をコンコンコンとぶつけて割る習性があり、それらどれもが可愛いくてたまらない動物です。
赤ちゃんがいるお母さんラッコは、お腹の上をベビーベットにします。
そこで赤ちゃんラッコを寝かせたり、ギュッと抱っこしたまま、ぷかぷかと水に浮いてました。
見ているだけで癒される愛すべき動物です。
そんな可愛いラッコなのに、なぜ日本の水族館では、ほとんど見かけないのでしょうか?
絶対に、超人気者になりますよね?
実際、少し?前までは、どこの水族館にもいてスター!でした。
唯一残っていた、古いパンフレットの証拠写真です。(小樽水族館)
このスター動物だったラッコ が、なぜこれだけ少なくなってしまったのか?
今回は、そのことについて記事にしていきます。
Contents
ラッコは、いつでも見れた!
こういう超人気者のラッコを、水族館が放っておくはずもなく、1994年(平成6年)の最大時で、122頭・全国28施設で飼育展示されていました。
目玉は、赤ちゃんラッコを抱っこしてぷかぷか浮いている姿や、餌やりタイムです。
『親子ぬいぐるみ』も人気でしたね。
食事の時は、常に一定の大きさの貝をもらえるので、石を使わず貝どうしをぶつけて割って食べるという、技を会得していたりしました。
割ったあとに、夢中で「ムシャムシャ」と、食べるしぐさもなんとも言えないくらい可愛かったものです。
自然界では、石を使って割るのですが、『割るのにちょうどいい』石が、そんなに都合よく毎回手に入るわけではありません。
そのため、野生のラッコは、自分のお気に入りの石、『マイ・ストーン』をキープしておく必要があります。かといって、常に持っているわけにはいきません。
そこで!ドラえ・・じゃなくて、「ラッコ」のポケットの登場です。
ラッコのわき腹部分の皮膚は、たぷたぷしている安西先生状態ですので、ポケットにできます。そこにマイ・ストーンを入れておくわけです。(食べ物をキープしておくこともできます)
※ちなみに『猫』も、同じく脇の部分の皮膚が柔らかく、かなり拡がる様になってます。
一説では、高所から落ちた時にここの部分を拡げ、「パラシュートの原理」で空気抵抗を増やし、落下衝撃を軽減すると言われています。
それではなぜ、こんなスター選手であるラッコ が、今は日本の水族館でいなくなって来ているのでしょうか?
つぎは、その核心に触れたいと思います。
ラッコは、絶滅危惧種!?
ラッコは、生涯のほとんどを水の中で暮らします。そのため、ラッコの毛は、たっぷりと空気を含むようになっていて、非常に保温効果が高くなっています。※毛の密度は、地球生物中ダントツのNO.1です。
その毛皮が狙われ、大量捕獲されていた歴史がありました。
それはずっと昔の話で、1900年初頭頃です。
その後、保護活動が始まり、個体数も大きく増えて来たのですが、今度はシャチの餌になったり(諸説ありますが、実際シャチの数が多いところではラッコの数が激減している事実があります。)、不法投棄・油の流出事故などの海水汚染の影響をモロに受けて来ました。
実際、油流出事故があると『壊滅的』なダメージを受けてます。
ある程度の年代や、洋汚染事故に詳しい方々ならご存知ですが、1989年の『エクソン・バルディーズ号』大規模油流出事故。
これによって、死骸が見つかっただけで1000頭以上・・
実際は、6000頭以上ものラッコ が死んでしまったとみられてます。
ラッコの毛は体温維持のために重要な役割をしてますが、油が毛につくと毛と毛の間に空気が入り込めなくなり、皮膚が直に水面に接して『低体温症』になって死んでしまいます。
ラッコは、よく『グルーミング』(毛づくろい)をしますが、それは毛にたっぷりと空気を含ませるためで、毛についた余計な汚れや油を取るためです。
つまり生きるために必要な作業です。
油流出事故などで有害な油が流出すると、直撃を免れたとしても、そのグルーミングによって、有害な油を体内に取り込んでしまいます。そして、臓器に障害を起こして死んでしまうのです。
そういう歴史や背景のある中、ラッコを保護しようと様々な活動が行われ、地域によっては頭数も増加してますが、いまだにラッコは、絶滅危惧IB類、いわゆる『レッドリスト』に分類されてます。
一般的に、このレッドリストとは、スイスに本部がある『国際自然保護連合』IUCNが決めているものを指しますが、それとは別に、日本の環境省も、個々の種の絶滅の危険度を評価して、レッドリストを公開してます。
その中でも、ラッコは絶滅危惧IA類(CR)(ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの)、として分類されてます。
水族館現存のラッコは高齢に・・
ラッコは『ワシントン条約』で国際取引が規制されています。
そのため、現在も生息数の多いアラスカがある米国からの輸入は、1998年で途絶えてしまってます。
そうなると、水族館どうしでラッコを移送(貸し借り)、したりして繁殖させていかねばなりません。
しかし、ラッコはかなりデリケートな動物でストレスに弱く、環境が変わると子供を産まなかったり、子育てを放棄してしまったりと、とても飼育が難しいです。
そこを、日本の高度な飼育技術と、各水族館・飼育員の皆さんの懸命な努力の結果、克服していき、ラッコの数をなんとか維持してきました。
それでもやはり、限界はあります。
じわじわと、ラッコの平均年齢が上がり、高齢化して来たこともあって、現在はもう赤ちゃんラッコはみることができなくなってしまってます・・
餌やりの時間になると、多数のラッコ が餌を受け取り、コンコンと貝殻を割って食べ、中には割った貝殻ゴミを飼育バケツの中に、ちゃんと捨てるお利口さんラッコ がいたり、イカの場合は、持ったままクルクル横回転して洗いながら食べる(塩味つけてる?)しぐさ、赤ちゃんラッコを大事そうに抱えぷかぷかと浮いている姿・・・それらはもう見ることができません・・
今や日本国内の水族館で、ラッコを飼育している施設と頭数は、5施設のみ7頭だけ
3施設のみ4頭だけになってしまいました・・
その貴重なラッコを見ることができる、施設情報を掲載しておきます。
※これから増えることはないので、こういうことで記事更新するのは辛いです・・
日本国内で『ラッコ』を見ることができる施設
現在「コロナ」影響もあり、営業時間を含め餌やりタイム中止など、随時状況が変化してます。詳細最新情報は必ず、事前にHP等でご確認ください。
※9月12日 のどじま水族館の最高齢ラッコ のラスカが死んでしまいました・・
人間でいえば100歳の大往生でした・・
いままでたくさんの人間、特に子供達を楽しませてくれて、癒しを与えてくれて、本当に心から感謝します・・
その功績もあり、せめて心にはとめておきたいので、のどしま水族館の情報はこのまま残しておきます・・・
のとじま水族館(石川県) 2020年9月12日未明 死んでしまいました・・
鳥羽水族館(三重県)・ラッコ2頭
アドベンチャーワールド(和歌山)・ラッコ1頭
残念ながらアドベンチャーワールドでの飼育・展示はやめて鳥羽水族館へ移されました。(事情はあるんでしょうが、最後まで慣れた場所で過ごさせて欲しかったです)
※パンダも見ることができます!(お勧め施設)
須磨海浜水族園(兵庫)・ラッコ2頭 1頭 2021年5月9日 一時預かりされていた鴨川シーワールドで死んでしまいました・・
マリンワールド海の中道(福岡)・ラッコ2頭 1頭 2021年2月22日に死んでしまいました・・
最後に
最大122頭いたラッコ が、今や7頭・・4頭です・・
代わりのスターを育てようと、同じイタチ科 カワウソ亜科のコツメカワウソを飼育している施設も増えて来ましたよね。
事実、英語でラッコは、sea otter、カワウソは、river otterと表記します。
海に適合し、進化したのがラッコ、川に適合したのがカワウソということです。
※日本の「ラッコ」という言葉は「アイヌ語」が語源です。
同じつぶらな瞳、愛くるしい表情はしてますが、コツメカワウソはコツメカワウソの可愛らしさ、ラッコはラッコの可愛らしさがあり、違うものです。
現時点ではおそらく、日本の水族館で直接みることができるラッコは、この7頭 4頭だけでもう増えることはありません。
それが悲しい現実です。
もともとが毛皮を獲るため、そして油流出事故を含めた海洋汚染。
それらは、我々人間がやったことです。
幸い、国際的に保護されているので地域は限られますが、徐々に数は増えているようです。
このまま頭数も増え、輸入できる様になる可能性は無いとは言えませんが、それはかなり先のことでしょう。
だからこそ、上記5施設に行ける距離に住んでおられるなら、是非とも『水族館維持のためにも』、コロナが収束してきたら、ご家族で、夫婦で、カップルで、見に行ってあげてください。(特に、お子さんには見てみてもらい、記憶に刻んでほしいのです)
それが、この記事を書いた動機でもあります。