一般的に「私、お酒に強い(弱い)から」、と言ったりしますが、それは真実でしょうか?
たとえば、少し飲んだだけで顔が真っ赤になるけど、そのまま飲み続けても意識・記憶もしっかりしている人もいます。
一方で、いくら飲んでも顔色も態度も変わらない人。同じく顔色は変わらないのに、一定ラインを超えると急に人格が変わり、翌日その記憶を無くしている…という人もいます。
それらを掘り下げるために、まずは医学的観点で見てみましょう
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アルコールが体内に入ると
アルコールが体内に入ると、胃で20%が吸収され、小腸上部で残り80%が素早く吸収されていきます。
吸収されたアルコールは、肝臓がフル稼働してアルコール濃度をかなり下げてから、全身の臓器に流れていきます。
飲酒後血中濃度ピークは追加飲酒がなければ、約30分から2時間後で、アルコール分解されることにより、濃度はほぼ一直線に下がって行きます。
※完全分解の算出は、少し複雑な計算方法なのでここでは記載しませんが、実際の速度は体重や肝臓機能等個体差により、かなりの違いがでます。
仮に体重50kgの人が、ビール(アルコール度5%)350mlを、1本摂取した場合だと約2.5時間
もし同じ量をウィスキー(度数45%)で飲んでしまうと、何と!約23時間は掛かります。(ウィスキーを普通の人は、そんなに飲まないですが・・・)
酵素の働き
アルコール分解には一次代謝・二次代謝がありますが、この働きで重要なのは「酵素」です。
・一次代謝
酵素によりアルコールが酸化され、「アセトアルデヒト」という毒物に変えます。
このアセトアルデヒトという悪の権化が、頭痛や動悸・顔を赤くする原因物質です。
・二次代謝
ここでアセトアルデヒドを無害な酢酸に変え、最終的に二酸化炭素と水に分解します。
この代謝時に活躍するのが、「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」という酵素です。
アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)は、遺伝子により2種類に分けられます。
ALDH1(1型)とALDH2(2型)です。
アセトアルデヒドから酢酸への酸化で、主に活躍するのが2型であるALDH2です。
ALDH2は、アセトアルデヒトが低濃度でもがんがん働いてくれます。
つまり2型は、乾杯の最初の一口目から全力で分解してくれているわけです。
それに対し、1型であるALDH1は、アセトアルデヒトが高濃度にならないと働いてくれません
※詳細は「ノンフラッシャーとは?」にて述べさせていただきます。
以上が一般的なアルコール摂取による医学的反応ですが、実際にはアルコールの吸収や分解には多くの要因が関係しています。
次はその観点で見ていきましょう
悪酔するのはどんな時?
悪酔いするのはどんな時でしょうか?
一気に酔いがまわり、気がついたら大きな失態を・・・記憶も・・ない・・では洒落になりませんよね
これはどういう時に起こりやすいのでしょう
1.空腹時
2.術(オペ)後
3.心理要因
1.空腹時
胃に殆ど何もない状態で、アルコールを摂取すると、本来受け持つはずの20%吸収が行われずそのまま直球で、小腸に流れ込んでいきます。
一種のアルコール洪水ですね
そうなると、アルコール吸収速度は当然早くなりますので、「血中濃度」が急上昇します。
血中なのでそれが一気に、脳に・・・で想像できますよね
これは強いお酒である程、更に加速されるとも言われてます。
だから空腹時に、強い酒を駆けつけ3杯なんてとんでもない!ということになるわけです。
2.術後
アルコール分解の主役である、肝臓の手術後は当然として、
胃の一部を切除しただけでもアルコールを摂取すると、空腹時と同じくダイレクト!
そのまま小腸に流れ込むことになります。
でも常識的に考えても、体にメスを入れ、臓器の一部が切除されているのに飲酒する・・という時点で論外です。
まぁ普通は、術後に乾杯!とは考えないでしょうが、自分の体です!大切に扱ってください。
3.心理要因
これが「やっかい」です。
人間は心理状態により、免疫機能でさえも大きく影響することはわかってます。
心理状態が、体に影響を及ぼすことを証明する実験として、プラセボ(偽薬)効果試験があります。
これは被験者に、「この薬はものすごく効く薬」だと信じ込ませて、単なる小麦粉等で作った偽薬を飲ませると、本当に薬を飲んだ時と同等の作用(影響)がでるというものです。
偽薬でさえそうなるわけですから、アルコール摂取時に多大なストレスを抱えていると、それはもう歯止めが効かなくなるのは目に見えてます。
失恋・仕事の失敗・上司や先輩に怒られた等々を、「酒を飲んで憂さを晴らす」というのは良くないことはわかりますね
飲みたい気持ちは理解できますが、やはりアルコールに頼らずに好きなことに没頭したり、大声を出す(カラオケとか)、思いっきり汗をかく(スポーツ)、犬や猫を撫でる(慰めてもらう・・)などで発散してください。
それではいい飲み方って?
いい(酔いにくい)飲み方とは?
悪酔いしない、いい飲み方とはどういうものでしょうか
1.胃にモノを!
2.アルコール濃度に注意!
3.心理要因
1.胃にモノを!
空腹時は良くない、ということは理解していただいたと思います。つまり、その逆を心掛ければいいだけです。
つまみや食事を取りながら飲酒すると、アルコールが胃に留まる時間が長くなり、吸収が遅くなります。結果、血中濃度も急激に上がらず、低く抑えられるという仕組みです。
合わせて、腸での吸収を遅らせるチーズや油類の料理・つまみ類をチョイスすればさらに効果があります。
ただし、そういうものはアルコールとWで太りやすいので、そこはご注意を・・
2.アルコール濃度に注意!
ここで、「あれ?悪酔い項目にちゃんぽんがないぞ!」と思われた方も居られるかもしれませんが、結論からすると、ちゃんぽん=多種類の酒を飲酒したからといって、悪酔いはしません
それなら何故そういうことがひろまったかというと、「アジ変」することによって、ついつい酒量が増えやすくなります。
そうなると結果的に、アルコール濃度が高くなるわけです。
そして気がついたら「昨日の飲み会の記憶がない・・」
翌日、一緒に飲んだ友達や同僚の視線が冷たい・・という、罠にかかってしまった人が多かったので、「ちゃんぽんすると悪酔いする」と言われる様になったみたいです。
悪酔いしないためにも、体のためにもアルコール濃度を高くしないことです。
それには
・一気に流し込まず、おつまみや料理を取りながらゆっくりと飲む
・度数が低めのお酒や、飲み方をチョイスする
・チェイサーを一緒に飲む
ちなみに「チェイサー」とは、(お酒の)後を追う飲み物のことを指してますので、別に水じゃなくてもアルコールが入ってなければ、お茶・コーヒーでもOKです。
3.心理要因
ここでも出ましたね「心理要因」
やはり、記念日や良いことがあった時の祝酒、(ストレス多大ではなく)適度なストレス時に気分転換として飲むお酒は、体の免疫反応が違いますから肝臓も全力で働いてくれるので、まず悪酔いしません
勿論上記1・2番は厳守することが前提です。
但し、「肝臓が正常」に働かねばなりませんので、いくら良いことがあったといっても、寝不足や体調不良時に飲酒はだめ!なのは当然です。
ノンフラッシャーとは?
お酒を飲んで発生する症状
顔が赤くなる フラフラする 頭痛 眠気などが起きることを「フラッシング反応」と言います。
逆に飲酒してもフラッシング反応が殆ど出ず、飲んでない時とほとんど変わらず、シラフの時と見分けがつかない人のことを「ノンフラッシャー」と言います。
これには、アルコール分解で活躍する「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」が強く関わってます。
分解酵素には、2種類あることは先にお伝えしましたが、それぞれ活性遺伝子の働きにより活性型 低活性型 非活性型の3タイプに区別されます。
アセトアルデヒトの分解に、重要な役割を担っているALDH2だとこうなります。
1.活性型 酢酸への分解が早い、つまり処理速度が早い為、フラッシャー症状が殆ど出ない
2.低活性型 酢酸への分解が非常に遅く、フラッシャー症状が出る
3.非活性型 まったく、分解できないので危険!
つまりノンフラッシャーとは、ALDH2 活性型を遺伝子として、持っている人のことを指します。
実はその中でも更に、酵素遺伝子タイプにより3タイプに分けられます。
ノンフラッシャーの人は、活性型遺伝子
通常のフラッシャー反応の人は、低活性型遺伝子
そして一口どころか、ちょっと舐めただけで動悸が起こり、顔だけでなく全身真っ赤になり、めまいや吐き気がする人は、非活性型の遺伝子(へたすると死にます。アルコール厳禁です。)
アセトアルデヒトが高濃度になって、初めて重い腰を上げ働き出すALDH1も、同じく3タイプに分けられます。
強く働く高活性型、ある程度働く活性型、分解が遅い低活性型に分けられ、2型と比較するとまったく働かないわけではありません
遺伝学的には、この1型と2型の組み合わせにより下記9タイプに分けられます。
ALDH2 | ||||
活性 | 低活性 | 非活性 | ||
ALDH1 | 高活性 | 高活性x活性 | 高活性x低活性 | 高活性x非活性 |
活性 | 活性x活性 | 活性x低活性 | 活性x非活性 | |
低活性 | 低活性x活性 | 低活性x低活性 | 低下性x非活性 |
ノンフラッシャーに該当する人は、ALDH2型の活性遺伝子を持っている人のことなので、「高活性x活性」「活性x活性」「低活性x活性」の遺伝子タイプになります。
ただし、ALDH2型活性といっても、ALDH1型の働きが違うので組み合わせにより、大きく変わります。
ここで冒頭の言葉を思い出してください。
いくら飲んでも、まったく顔色も変わらないのに、ある『一定ラインを超えると』急に人格が変わる・・
1型2型それぞれ分解酵素の特徴がありましたよね
そこから考えれば、答えを導きだせます。
もともと『2型活性酵素』を持っているので、低濃度=最初からフルに働きアルコールを分解
しかしそこに甘え、そのままアルコールを追加飲酒し、濃度をどんどん上げて行くと・・・
2型の分解限界を超え・・最後の砦1型が働きだします。
ここで差がでます。
高活性x活性型
周りから見ると「シラフ」でけろっとしているようにみえ「あいつ、いくら飲んでも酔わないよな」と言われたります。
活性x活性型
少し饒舌になったり、陽気になる程度で、「ちょい酔い」の症状がでるくらいです。
低活性x活性型
アセトアルデヒトという悪玉が溢れ、一気に雪崩れ込んで来ているのに戦えない・・
つまり分解能力が低いため、限界を超えて『急激に酔いが回る・・』という仕組みです。
それである限界を超えると、人格崩壊したり失敗をしてしまったりするわけです。
過去何人か、そういう方と飲んだことありますが、その中でも『きっかり30分』で人格が変わる人がいました。
毎回必ず駆けつけ3杯でなく6杯(ビール)、それも一気飲みです。
その後もハイペースで飲み続け30分を過ぎると・・・
急に太宰治のはなしを始めます。それが合図です。
太宰論から入り、文学的分析といかに自分が心酔しているか、に続いて人生論
そこまでは全然いいのですが、その後(普段は真面目でかなりおとなしい人です)急に机を叩き怒鳴りだす・・・ 他のお客さんに議論を吹っかける・・・ 泣き出す・・
そうなると手がつけられなくなるので、お開きにして強制解散して外に連れ出すしかありません
しかし顔色はまったく赤くなく、フラッシャー症状はでてません
そして翌日には「酔った時の記憶がまったくない・・」わけです。
飲み初めて、最初の30分までの記憶はちゃんとあるので、毎回大事な話や約束事は「30分前までに」急いで話したり、決めたりしなければなりませんでした。
DNA検査をしたわけではないのですが、低活性x活性型の遺伝子を持っていたと思われます。
お酒に注意しなくては駄目なタイプの人とは?
タイプが判ったところで、飲酒について一番注意しないと駄目なタイプの人とは?
どのタイプの人でしょうか
まず勿論、アセトアルデヒト分解に一番重要な、2型「非活性型」3タイプはいづれも駄目です。
お酒は避けてください。
ましてや1型も低活性だとすると、そのまま毒を飲んでいるのと変わりません、命に関わります。
訓練すれば強くなるということは無いので、STOP飲酒!です。
次に気をつけねばならないのは、2型「低活性」3タイプの方々です。
特に2型1型とも低活性の場合は要注意です。
医学的に健康リスクが一番高いタイプになるので、飲酒には最大の注意を払った方がいいです。
それでは、ノンフラッシャーである2型活性型だったら大丈夫なのか?
というと勿論注意が必要です。
かなり飲んでも「つぶれない」から、際限なく飲んでしまうことが多く、結果的に多量のアルコールを摂取してしまいます。それが長年に渡り続いてしまうことが多いからです。
そうなると流石に、沈黙の臓器である肝臓がやられます・・・
ノンフラッシャーで若い時にはちょっと飲んだら、すぐにトイレに行っていたのに、気がついたら最近は、飲み終わるまで全然トイレに行ってない(全然行きたくならない)
若い時=全盛期から、一緒に飲んでいる友人やパートナーから「最近お酒を飲むとちょっと顔が赤くなる様になったよね」、と言われたら危険信号です。
肝臓が悲鳴を上げていると自覚し禁酒するか、せめて程々にする様にして、定期的に肝機能チェックをしてください。
アルコール依存症にもなりやすい危険性もあります。飲み方注意!
低活性型の人は、飲酒する習慣があれば「自分の限界」を知っている方が多いはずです。
つぶれる=ストッパーがかかるので、急に多量に飲むような馬鹿な飲み方をせず、適度な飲酒を心掛ければ、お酒といい付き合いができます。
アルコール(エタノール)パッチテスト
お酒を飲まない方や、20歳未満の方で、それぞれどのタイプであるかを知りたければ、アルコールパッチテストを行えば自己判断できます。
テスト方法
1.薬剤のついてないガーゼ付き絆創膏に、市販の消毒用アルコールを2~3滴染み込ませる
2.上腕の内側(皮膚の柔らかい所)へ貼る
3.7分経過したら絆創膏を剥がし、数秒以内(5秒位)に皮膚の色を見る
4.剥がしてから更に10分後に、もう一度肌の色を見る
判定
3の時点で、剥がしてすぐに赤くなる→「非活性型」お酒は避けてください
4まで経過し10分後に赤くなる→「低活性型」
10分経っても何も変わらない→「活性型」
※これで「ある程度」の判断はつきますが、9タイプのいづれかであるかまでは判りません
正確に知りたい場合には遺伝子検査を受けてください。
最後に
どうだったでしょうか
今までは簡単に、「お酒に強い 弱い」と言っていたかと思いますが、これで視点が変わったり、ちょっとでも健康意識を高めることに役立つのであれば幸いです。
全然飲めない非活性型でも、「飲み会が大好き!」という人を多数知ってます。
飲み会の雰囲気や、時は酔っ払っている人間を観察するのが面白い!とか理由は様々です。
なので自分は、ずっとソフトドリンク。
それでもスタートからお開きまで、楽しく参加してます。
アルコール類は、飲める人も飲めない人でも、周りの雰囲気を楽しいフィールドにする力がある妙薬、という面も否定できません。
飲める方は「良い飲み方」を心掛けながら楽しく、飲めない方は相手を選び(絶対に、飲酒を強制しない相手)、「酔い方の観察」をしたり、場の雰囲気を楽しんでもらえればと思います。
楽しい酒(飲み会)を心がけましょう!
くれぐれも、飲み過ぎだけには注意してください。